高齢者向けのバリアフリーリフォームとは?ニーズとメリットを徹底解説
高齢者向けのバリアフリーリフォームとは?ニーズとメリットを徹底解説
高齢化が進む日本社会では、高齢者の人口は2042年にかけて3,878万人まで増えると予想されています。
総人口は少子化の影響で減り続けるため、高齢者の割合が非常に高くなり、2060年には40%近くにまで上昇し、実に2.5人に1人が65歳以上の超高齢社会になるとされているのです。
若年層の人口増加が見込めない現状を考えると、今後の賃貸経営においては高齢者の入居も視野に入れ、空室対策を考えないといけなくなるでしょう。
この記事では、高齢者向けのバリアフリーリフォームをピックアップし、入居につなげるための方法をはじめ、リフォームするメリットやデメリット、工事費用に対する支援制度などについて解説していきます。
バリアフリーリフォームは、これからの不動産経営を行う上で知っておくべき知識です。ぜひ最後までお読みください。
バリアフリーリフォームとは
高齢になるにつれ、身体機能は次第に低下していきます。
若い人にとっては何でもない段差につまずいて転倒することも増え、大きな怪我を負うリスクも高くなるでしょう。
また握力が弱くなり、ドアノブをスムーズに回せなくなる人も増えていくようです。
バリアフリーリフォームは、こうした事故を防ぎ、住人が安全で快適に過ごせることを目的としています。
もちろん、高齢者にとって住みやすくなるだけでなく、若い人や子どもにとっても安全で安心して暮らしやすい空間と言えるでしょう。
ちなみに、バリアフリーリフォームは目的によって、手すりの設置といった簡単な工事から、住宅設備の取り換えなど大掛かりな工事まで、さまざまなリフォームが考えられます。
バリアフリーリフォームのメリット
今後の高齢化社会に向けて、バリアフリーリフォームを検討している物件オーナーも多いのではないでしょうか。
バリアフリーリフォームには、空室率を下げ、室内事故の発生リスクを減らすといったメリットがあります。
ここでは、バリアフリーリフォームのメリットについて解説していきます。
空室率を下げることができる
高齢者の割合が増えることで、バリアフリー住宅へのニーズが高まっていきます。
賃貸物件を探す際に、もしバリアフリー設備が整っていれば、高齢者が賃貸契約する際の大きな後押しとなるでしょう。
また、バリアフリー設備の多くは高齢者だけでなく、若い人や子どもにとっても使いやすい仕様になっているので、高齢者がいない世帯にも人気が出やすいです。
「この物件のオーナーは、入居者の暮らしに配慮してくれている」という評価にもつながるため、入居率の向上や退去の抑制にもつながるでしょう。
高齢者の室内事故発生のリスクを減少
内閣府が発行する高齢社会白書によると、65歳以上の高齢者の事故の約8割が、家の中で発生しています。
その中でも多発しているのが、転倒事故です。高齢者にとっては、骨折などの大けがになりやすい事故の一つと言えます。
バリアフリーリフォームを実施することで、室内事故の発生リスクを減らすことができれば、入居者だけでなく物件オーナーにとっても安心材料と言えるでしょう。
バリアフリーリフォームのデメリット
バリアフリーリフォームには大きなメリットがある一方で、デメリットもあります。
デメリットを把握したうえでリフォームの実施をよく検討してください。
工事中は家賃が入らない
リフォームを実施している間は、入居者を入れることができません。
当然、家賃収入がなくなるため、金融機関への返済や納税資金など、当面の資金を用意しておく必要があります。
とはいえ、リフォームによって物件の価値が高まれば、家賃を上げることも可能です。
一時的に収入が落ち込むかもしれませんが、将来的な収入を増やすことにもつながるので、積極的にバリアフリーリフォームを検討しましょう。
資産価値は上がらない
リフォームに費用をかけることで物件の利用価値が上がるため、入居者からの人気が高まって収益がプラスになることも見込まれます。
しかしながら、リフォームによって資産価値が必ずしも上がるわけではないため、必要以上に費用をかけてリフォームするのではなく、必要なリフォームを実施し、効果的な投資をしていくことが大切です。
バリアフリーリフォームのポイント
バリアフリーリフォームを実施する際に、考えておくべき3つのポイントを紹介しますので参考にしてください。
事故を防止できる造りにする
安全性を高めることは、バリアフリーリフォームの大きなポイントです。
若い人には何でもない少しの段差でも、高齢者にとっては転倒の原因になります。
古い家には段差が多いため、それらを解消するリフォームを考えましょう。
また、滑りやすい床も転倒の原因となります。大きな工事になりますが、滑りにくい床素材に張り替えるのも効果的です。
自立を支援できる造りにする
バリアフリーリフォームでは、高齢者が暮らしやすく、そして自分でできることはなるべく自分でできるように自立を促す造りにすることが重要です。
家の造りが悪く日常生活で動くことが億劫になってしまうと、どんどん活動が減ってしまい、身体機能の衰えが進みます。そうならないためには、生活導線を考えて移動が負担なくできるようにするといいでしょう。
例えば、スロープや手すりの設置、玄関の拡張などです。
また、生活に必要なトイレや浴室などの水回りも、高齢者が使いやすいモデルが多くあるので、一度確認してみて下さい。
将来の負担を軽減する造りにする
バリアフリーリフォームでは、介護する人のことも頭に入れておく方が良いでしょう。
車いすを利用する場合も考えて、廊下やドアの幅、トイレなどのスペースを広くしておくと、介護がしやすくなります。
介護がしやすいことを第一優先で賃貸物件を探している方もいます。
バリアフリーリフォーム具体例
ここからは、実際のバリアフリーリフォームの事例から、工事内容や費用を見ていきましょう。
工事内容によって費用は大きく異なりますので、物件に合ったものを、しっかりと選ぶようにしてください。
尚、下記の金額についてはあくまで一般的な費用の参考としてご確認ください。
手すりの設置
手すりの設置は、バリアフリーリフォームでまず初めに検討すべき工事です。
設置をする際の注意点としては、設置場所によって素材や設置する高さを変えなければならないことです。
廊下や階段ではI字型の手すりを高齢者の腰のあたりの高さに取り付け、トイレにはL字型の手すりを便座に座ったときの腰の高さに設置します。
ちなみに、I字型の設置費用は3万~5万円、L字型の設置費用が4万~6万円です。
なお、階段は転倒のリスクから大きな事故が起こりやすい場所であるため、手すりは優先的につけるようにしましょう。設置費用は、10万~15万円になります。
床の段差の解消
段差の解消は、手すりの設置に次いで、よく行われるバリアフリーリフォームです。
トイレや各部屋の段差を解消する工事は、1カ所あたり2万円~5万円程度かかります。費用を抑えたい場合は、スロープを取り付ける工事も可能です。
ちなみに、玄関前の階段をスロープに変更するような大きな工事の場合は、50万円以上かかる場合があります。
滑りにくい床材等への取り換え
居室や廊下の床材を滑りにくい素材に換えて転倒を防ぐとともに、転倒してもケガをしにくい素材に換える工事も多く行われています。
床材の変更は素材にもよりますが、6畳で15万円程度です。
また、滑りにくいカーペットはクッション性に長けており、それを敷いて費用を抑える方法もあります。
コンセント位置の変更
車いすを利用する場合や、動く範囲が狭くなった場合に備えて、コンセント位置を変更しておくと便利です。
コンセントの移設や増設工事は、既存のコンセントからの距離など配線状況によりますが、1カ所1万円~3万円程度かかります。
それほど費用がかかる工事ではないので、取り掛かりやすい工事と言えます。
断熱材や全館空調の導入
脱衣場と浴室、暖かい部屋と冷たい廊下などのように温度差が大きいところに移動した際は、血管の収縮によって心筋梗塞や脳梗塞になる場合があります。
それが、住宅内での高齢者死亡事故で多いとされる、ヒートショックです。
防止するためには、建物全体の断熱性を高めて温度差をなくす方法や、あるいは廊下や浴室など全館を空調で温めるといったリフォームがあります。
ただし、断熱工事はどこにどのような工法で施工するかによって費用が大きく変動するものの、100万~300万円程度必要です。
全館空調も設備本体の価格と工事費で100万円以上かかりますので、賃料に見合うかなど、しっかりと検討するようにしましょう。
引き戸など使いやすい扉への取り換え
扉部分のバリアフリーリフォームでは、広い引き戸に変更する工事が多く行われています。握力が弱くなってドアノブが回しにくい、車いすで通りにくい、と感じる方が数多くいるためです。
工事費用は、ドアノブを大きなレバーハンドルに変更する工事で1カ所につき1.5万円程度、扉ごと引き戸に変更する場合は約10万円かかります。
また、ドアの改修の際には、取り換えに必要な幅が取れるかどうか、工事業者にしっかり確認してもらうようにしましょう。
トイレのバリアフリー化
トイレは毎日何度も利用するので、導線をしっかりと確保しておく必要があります。基本的には手すりの取り付けが一般的で、設置費用は3万円程度です。
また、トイレの中で倒れたときのことを考えて、引き戸に換えておくのも良いでしょう。
ちなみに、現在和式トイレを使用しているのであれば、足腰に負担が少ない洋式トイレに取り換えるほういいですが、設備の本体価格と工事費で40万円ほどかかります。
お風呂のバリアフリー化
風呂場では、段差につまずいたり、濡れた床に滑って転倒したり、温度差からヒートショックが起こったりと、さまざまなリスクが潜んでいます。
その対策として、段差解消、手すりの設置、滑りにくい床材への変更、浴室暖房の設置など、リフォームの種類も多くあるため、必要なものをよく考えて取り入れなくてはいけません。
ちなみに、それぞれの費用は、段差解消5万円程度、手すりの設置3万~5万円、床材の変更10万~15万円、浴室暖房乾燥機の設置9万~25万円程度が目安となります。
なお、既存の浴室をユニットバスに変更する場合には、70万~150万円程度の費用が必要なので、リフォームする際は計画的に行うようにしましょう
バリアフリーリフォームを行う際の注意点
ここまで見てきたように、バリアフリーリフォームには大きな費用がかかります。
また、高齢者向けリフォームのノウハウも必要になりますので、工事をお願いする業者はしっかりと選ぶことが重要です。
その点も含めて、バリアフリーリフォームを行う際の注意点を解説します。
実績ある業者に依頼する
バリアフリーリフォームを依頼する場合は、豊富な施工実績のある業者に依頼するようにしましょう。
設備の取り換えや設置の施工技術はもちろん、高齢者特有の対策やノウハウが必要になることが多いためです。
また、補助金が使えるケースもあるため、申請手続きに慣れている業者のほうが手続きをスムーズに進めてくれます。
リフォームの目的を明確にする
バリアフリーリフォームは、工事の目的をしっかり決めてから話を進めましょう。
目的があいまいで、業者に勧められるままに契約していくと、費用も工事期間も多くかかってしまいます。
予算と効果を照らし合わせて、有効なリフォームにするように、業者としっかり打ち合わせてください。
バリアフリーリフォームに使える支援制度
バリアフリーリフォームに対しては、国や自治体が行っている支援制度があります。
リフォーム実施を検討する際には、利用できるものがないか、しっかりとチェックしましょう。
ちなみに、バリアフリーリフォームに詳しい業者であれば、制度のことも当然知っているため、分からないことは聞くようにしてください。
長期優良住宅化リフォーム推進事業
同事業では、既存の住宅(集合住宅を含む)を省エネ化にするリフォームや、子育て世帯向けの改修工事を実施する際の支援を行います。
建物の劣化対策や耐震性、省エネ対策など、性能項目を向上させる目的もあるため、利用したい制度の一つです。
■該当するリフォーム
同事業を利用する場合、リフォーム前にインスペクション(住宅診断)を受ける必要があります。
インスペクションで指摘があった項目を補修して、性能基準を満たせば補助金を受けることが可能です。
■補助額
補助率は、補助対象のリフォーム工事の合計費用の1/3で、限度額は以下のとおりです。
・長期優良住宅認定を取得できていないが、一定の性能向上が認められた場合、1戸あたり100万円
・長期優良住宅認定を取得できた場合、1戸あたり200万円
・長期優良住宅認定を取得できて、さらに省エネ性能を高めた場合、1戸あたり250万円
高性能建材による住宅の断熱リフォーム支援事業
高性能建材による住宅の断熱リフォーム支援事業は環境省によって推進されており、高性能な断熱建材を使ったリフォームを通じて、エネルギーの消費を削減し、二酸化炭素の排出を低減することを目的としています。
この事業は、環境への負荷を軽減しながら快適な住環境を確保するための重要な一環です。
■該当するリフォーム
集合住宅を含む既存住宅において、一定の省エネ効果(15%以上)の高性能な建材を用いた断熱リフォーム工事が補助金対象となります。
例えば、以下のようなリフォーム工事です。
・断熱材の導入または更新
・高性能窓の設置
・壁や屋根の色調変更
補助金の詳細や申請方法は、環境省のウェブサイトや地域の自治体で確認することができます。
■補助額
対象となるリフォーム工事費の1/3が補助額です。
戸あたりの上限は、集合住宅の場合で15万円になるので覚えておきましょう。
住宅セーフティネット制度
住宅確保要配慮者といわれる高齢者や障害者、シングルマザーなどが入居する住宅のための改修費補助をする、国土交通省の制度です。
空き家などをリフォームして、住宅確保要配慮者のための住宅を供給することを目的としています。
■該当するリフォーム
バリアフリーリフォームや耐震工事、間取りの改修リフォームなど、入居者に必要なリフォームが対象です。
それらの工事費の補助が受けられます。
■補助額
補助率や補助額については、補助対象となる工事によって異なりますので、国土交通省のホームページなどで確認してください。
また、同制度を利用するとさまざまな制限がかかりますので、リスクも合わせて検討する必要があります。
まとめ
今後、日本社会の高齢化の流れは止めることができません。それに伴って、バリアフリーの物件に対するニーズも高まっていくことになるでしょう。
これからの不動産経営において、こうしたニーズに対応し、バリアフリーリフォームを実施することは、空室リスクを低減するための大きな選択肢となります。
ご紹介した補助金などを活用しながら、一度検討してみてはいかがでしょうか。
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